《MUMEI》

「聞いてるかぁ、祐希!」
「聞いてるよ」


あの日は、慎はかなり酔っていた。


ずっと好きだった、同僚の女が、別の男と結婚すると言う。


だから今日は、一人暮らしの俺のアパートで、飲み明かすと言って、泊まりに来ていた。


―俺は、必死で冷静を装っていた。


「俺って、そんなに男として、魅力ないかぁ?」

「そんな事、ないよ…」


(だから、そんなに見ないでほしい)


慎の顔を、まともに見たら、終りだと思った。


俺の、理性が本能に負けてしまうから。

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