《MUMEI》

「どうも」

女は待ち合わせ五分前に、階段下に立っていた。


「慎にもう近付くな!」
「嫌よ」


即答する女に、俺は手を伸ばす。

…脅かすつもりだった。

「…あのね」
「痛!」

女が俺の手首をギリっと掴む。


「このまま、貴方を傷付けるのは、簡単だけど、貴方だって人前で恥はかきたく無いでしょう?」


寒気がするほど、冷たい瞳で睨みつけてくる。


「まぁ、人の話を聞きなさいよ」


ニッコリ笑って、俺の手首を離した。

その目は笑っていなかった。

手首には、くっきり指の形の痣が浮かんでいた。

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