《MUMEI》

「王様に会いに来ました。」

「ええ、承知しております。王もお喜びになるでしょう。」

質素な身なりの執事がロイ達を謁見の間まで案内する。

城の中は門と同じ煉瓦作りだった。
煉瓦に細やかな装飾が彫刻されていて格式の高さを思わせる。

扉を開くと廊下まで続くベルベットの絨毯が真っ直ぐに王の靴に向かって途切れている。

絨毯に靴を脱ぎ、王座の周りに玩具が散乱してあった。一見、子供が遊び飽きた跡のようだが、誰も叱責をしない。
王の戯れだからだ。

お気に入りの玩具の一つを抱え込みながら王はロイ達を見据える。


「お初にお目にかかります王様。
私は名も不安定な国の王子、そして今はこの国に滞在させていただく旅人です。
後ろのは私の連れのローズです。」

程よい距離を保ち、ロイは紳士的にお辞儀した。
舞踏会なら貴婦人達が放っておかないだろう。

ローズはロイの声に酔うたようにうっとりと両手を組んで祈っている。
さながら聖女の礼拝に見えた。実際は主人の脇に傅く従順な家来の一人であったのだが。


「ああ、本当に布の塊が歩いている!
僕も君達を待っていたよ。面白いものが来るって予感がしたんだ。」

王は手元のお気に入りのくまを放り投げ、ロイ達を興味津々に凝視する。

王は幼かった。

十になるかならないかの少年が王座の上で持て余している。

子供の王は無邪気に笑いかけた。

「なにかやってみせてよ、一人遊びは飽き飽きだ。」

「分かりました。……ローズ。」

ロイはそれだけ言うと恭しくローズの手を取り立ち上がらせた。

「はい」

ローズは唄った。


耳に心地良い旋律だ。
音色も歌詞も異国のものである。

故郷の歌なのか、ローズの一つ一つの息遣いまで聞く人の魂を揺さぶった。

特技という言葉では過ぎていて、芸術として成り立つ出来だ。

聞き手の感動も頂点に達し歌い終えたローズはスカートを摘み上げ淑女らしく頭を垂れる。

「うちのローズは素晴らしい乙女でしょう?」

満足気にロイは王に笑いかけた(ように布の下の表情を誰もが予測することだろう)。

「……欲しい!枕元に置いておきたい。」

王は新しい玩具を見付けたようだ。

「王、申し訳ありませんがローズは私の乙女。代わりに私の舞いで我慢してもらえませんか?」

ロイは体中に巻き付いた布を解いた。



黄金に輝く髪が麗人という名に相応しい。
白と蒼を基調とした身なりで誰しも王子様だと理解できる。
10代ならではのユニセックスさを持ち合わせており、陽射しの弱い国の生まれか色素の薄い肌に両の瞳は閉ざされ髪と同じ色調の睫毛が並ぶばかりだった。


風にしなる細身の剣を抜き取る。片手で突くタイプの鋭い剣だ。

この国では武器は火薬物等を含まなければある程度容認されている。

バトンでも扱うようにロイは手首で剣を回す。


ヒュン ヒュン

縄が回転する音と剣が大気を切り込む音は似ていた。

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