《MUMEI》 夏が来れば「夏川、やっぱり転校するのか」 ビラの疑惑も晴れずに夏川は虐めグループの一人に気があるんじゃないかとか、同性愛者のレッテルが貼られ続けた。 夏川自身が特に弁解することも無かったせいだ。 「うん、親の都合もあるからね。」 腑抜けた笑顔を向けた。夏川が誰かを疑うことは無い。だが、優しいなんて思ったことは一度も無かった。 「公園で会ったのは久し振りだな。」 此処に来たのは佐藤と会って以来だ。 「俺は毎日のように来ていたよ。 まさか、ここにいたことが偶然だと思ってる?」 夏川は俺を見透かす、俺も夏川を見透かしている。 「……平高君は怨んでる?」 「いいや。」 そんなはずはない。 「でも、少し気になっていたでしょう?彼のこと。」 俺に夏川が絡んでくる理由、俺も夏川もそういう性癖だからだ。 だからといってツルむ気は毛頭なかった。公園に居た理由も正義感や夏川への罪悪感からでもない。 夏川を虐めている一人を気にしていたからだ。 そして夏川の俺に送る視線はあからさまな恋慕だった。 視線が合うたび互いに読み取れる胸中に苦笑いを浮かべるような俺達だった。 「甘いよ。自分は真っ当な人間だって口に出しゃあいいんだ。」 だんまりは余計に人間の好奇心を煽る。 「もしバレたら君は自分を偽れるのだろうね。僕には無理だよ。そんな器用じゃない。 君は上手く生き抜ける。けど、哀しい恋ばかりだ。 環境に適合しなくても僕はきっと愛を手に入れられるよ。 …………平高君は?」 最後の一言が挑発しているみたいだ。 「俺は落ちない。」 幸せを選べない哀しい男だ。 「屈服すればいいのに。優しいね。」 夏川は自分を利用しろと言っている。 「俺はお前に釣り合わないよ。こんな奴じゃ肩凝るだろ?」 俺達はこんなだから適合しなけりゃ「普通」に振る舞わなきゃいけない。 夏川はそういった煩わしいものを取り除き始めている。俺は臆病者で、そんな夏川が恐ろしくて仕方がなかった。 前へ |次へ |
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