《MUMEI》
帰郷
オレは最悪な男だ。自分が引き起こした事なのに、勝手に逃げてきた。
しかもすぐに見つからなさそうな故郷、沖縄の離島へ。
「あいかわらず暑いな」
出国ラッシュにはまだ早い7月、沖縄の某離島にオレは来ていた。
今から約10年前にオレはここに住んでいた。離れたのは親の転勤とかじゃなくて、自分の才能のせいだ。
「嘘だろ」
なんと四車線道路ができていた。あの頃はまだ砂利道と、ニ車線道路しかなかったはずなのに。
「ここも都会化か…」
むしょうに寂しくなった。でも道路沿いにはサトウキビ畑しかなくて安心した。
まっすぐ祖母の家へ向かう。父方の祖母だ。
「おばあ!」
家の奥からひとりの背の低い人が出てきた。
祖母は小さく息を飲み、
「……高春か?」
と聞いてきた。
久しぶりに聞く祖母の声に、震えが全身に走り涙が出そうになった。
「うん、そう。高春さー」
自然となまりも言葉使いも戻っていた。10年間も話していなかったはずなのに。
仏壇の祖父に手を合わせ、昔、父が使っていた部屋に荷物を置いた。
「おばあ、ちょっと出かけてくるね。」
祖母はオレに何にも尋ねたりしなかった。
どうして急に帰ってきたのかとか、いつまでいるのかとか、聞きたいことは山ほどあるはずなのに。
向かったところは祖父の畑だ。高低差があまりないこの島で、祖父の畑は高台にある。空が特にきれいに見える場所だとオレは勝手に決めつけている。
サトウキビの根元を踏まないように、奥へ奥へと進んで行く。実は奥には一部分だけサトウキビが植えられていないところがあるのだ。
そこは、オレとある人との秘密基地であり、大切な場所だった。
そこには、誰かがいた。
白いワンピースを着た、髪の長い女の人。
「あのー…?どちら様ですか?」
その女の人が振り返った。オレは心臓が止まりそうになった。
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