《MUMEI》
彼女だけ視えるアカイ世界
 
私としてはこの長い髪がウザったくもある。だけど彼が「このままが良い」と言うから仕方なく切らずに伸ばしている現状

「君自身もだ。とてもこの世の者とは思えない―――」

首筋に口付けされる
なんて安っぽい褒めコトバ
この世の者とは思えない、か
それは良い意味にも悪い意味にも使える便利なコトバ

彼の身体が暖かい。私の身体はいつも冷たいから羨ましい。
彼の身体…アタタカイ………

「………―――」

少し、心臓の鼓動のリズムがおかしくなった。

気付けば彼の首筋は私の目の前にある。

<…………ダメ。それは>

血管がある。そこを外気に全く触れてない新鮮な血液が流れてる。

<…………もう人を襲わないと、誓った筈>

それは、凄く美味しそう。そういえば私はお腹が空いている。

<…………それをシたら、後には戻れない。お願い、良く考えて>

私の些細な変化に彼は全く気付かない。
彼の掌は私の胸を包み込み、ゆっくりと柔らかさを確かめるように揉みしだいてゆく。

「んっ…………」

背筋が震えた。胸は、少し、弱いから、困る。

<…………ちゃんと今まで我慢出来てたでしょう?>

―――我慢、これ以上の我慢に何の意味が………
あんな冷たくて死んだ血液なんてお腹の足しにもならない。

<…………昔の自分に戻りたいの?>

昔の私? 昔の私はどんな私?

<…………私は、彼の事が好きだったんじゃないの?>

嗚呼、五月蝿い!

―――身体が活動を始める

我慢なんてとっくに限界を越えていた。
だってこの瞳に映る景色は全て赤く、黒い服を着た彼も、晴天で眩しく蒼く澄んだあの空も、この部屋一帯に彩られた全てを無にするような濃い白色も、赤以外の模様なんて瞳が忘れてしまったかのように、どれもみんな全て完全に例外なく、赤い。

特に血液が走るところなんて、そう―――真っ赤っ赤


 

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