《MUMEI》
前触れ
「私、国雄と同じ大学に行ってあげようか。」

気まぐれか、同情か、レイは思わぬ言葉を発するときがある。

「……どうでもいい。」

何もかも棄て切った頃に訪れた突然の吉報。
素直に受け取れるほど俺は子供でもなかった。

レイは不思議だ。

だから俺をこんなにも惹きつけて止まない。

死ぬときはレイに殺されるんだと思い込んでいた。





あんなにも傷付け合ったのに俺達はずっと不変だった。
俺には燻るだけの関係であったがレイの中には何を見いだせていたのだろう。

手は差し延べても歩み寄らなかった彼女の気高さ。
病に伏しても昭一郎に寄り掛からなかった強さ。

選ばれなかった自分の不完全さに捕えられた。



全て投げ出そうとしたとき手首を握ってくれていたのは彼女だったのに、俺は最後を看取ることさえ出来なかった。

何も返せずに昭一郎から貰って大切にしていた櫛を騙し取るような能無しだった。
レイがあの櫛を昭一郎からの贈り物と信じて肌身離さず持ち歩いていることが俺を苛んだ。

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