《MUMEI》
自由束縛
 
「クソッ、あの野郎………年下の癖に生意気ぶりやがって!」

空いてるボックス席に私は乱暴に座った。
書類やら何やら入った鞄を膝に置く。これだけは無くす訳にはいかないのだ。

今日もいつものように労働時間が終わった。
最近は歳を喰うたびに会社にいる時の時間が長く感じる。
出世街道から外れてしまった私は万年係長のままだ。
果てや年下にミスを叱責される始末。肩が重い。もう沢山だ。

「―――? ああ、そうか、禁煙してたっけか………」

習慣とは怖いものだ。
無意識で胸ポケットをまさぐっている。
煙草は苛々した時に、特に欲する物だ。しかし今の私は、会社の健康診断で肺に少し異常ある事が分かり家族から煙草を禁止されている。

揺れる列車。
軽快なリズムで流れる振動音。
反比例するようにささくれる私の心。
それは消耗してゆく乾電池に似ている。

初めから先は見えている。ただ力が無くなるまで働き続ける消耗品。人間と言う名の世界を動かす消耗品。

―――私は今、何をやってるんだろう

明日も仕事がある
明後日もある。日曜日以外は全部ある。生きていくには一生付いて回る。

瞳を閉じる。
仕事にパソコンを使う。
目はかなり疲れてる事だろう。
そうだ疲れてる。目など言わずそれこそ体全体が摩耗しきっている。

目頭を押さえる。
………どうやら自分の精神力は思いの他、強くないようだ。


 

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