《MUMEI》
自由束縛
 
その後も経験した事も無い死について女性との間でクダラナイ問答が続く。

………?
いつの間にか、私はこの女性と普通に話し合っていた。
不思議と不快に思う事は無い。
別にこの女性に一目惚れした訳でも無い。
まぁ、良い。気まぐれだ。今日、この列車にいる時だけ、この頭の悪い女性の無駄話に付き合おう―――

「貴方は、死んだら自由になれると思いますか?」

「さぁてね。死ねば全てが終わる。何もしなくていいし何もする事は出来ない。だって死は同時に無だ」

「自由束縛」

「っ、あはははは! そうだな、それが相応しい。なんて矛盾だ。死は永遠の自由を、同時に永遠の束縛を与えてくれる」

可笑しくて堪らない。
だから死は無と言う表現をする
私は霊なんて信じない。死の先にあるのは無に他ならない。

「……………」

会話が無くなってしまった。
青い女性は窓の外を見ている。
その横顔、その横顔だけは美しいと言えるのかも知れない。

「……………」

カタカタカタと列車の小さな振動で窓枠が小刻みに揺れる。
時が止まってしまったかのような静かな時間。
秋の夕日。哀愁が漂う。

依然会話は無い。
女性は窓から映る景色を見てるだけ。
沈黙が続くが、そう悪いものでもない。
無理に会話を作る必要は無い。

何だが眠くなって来た。

「来ます」

「………なにが?」

欠伸を噛み殺す。
青い女性は窓の外を指差している。
一体何なのか。女性は指を差すだけで先を言わない。
溜息を吐きながら、私も窓へ視線を向ける。

―――景色が流れる
高速で流れていく。
肉眼では遠くの方にある景色しか目で追えない。
遠く遠くに赤い海と半分沈んだ夕日に地平線。

もうすぐこの列車はトンネル内に入ろうとしている




 

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