《MUMEI》
自由束縛
 




「………?」

トンネルに入った途端、辺りは闇に沈んだ。

それは当たり前だ。トンネル内は太陽光を遮断する。
今だけは列車内のボロい蛍光灯の明かりのみが頼りだ。
無論、外を見ても黒以外何もない―――筈だ。筈なのに

これは、これは………いつものトンネル内とは、何かが違うようだ。

窓に何かが映った。
それは何か? 初めは小さかったのに段々迫って来る。
窓一面がスクリーンのようだ。

「なにが………」

小さい男の子が走ってる。これは体育祭か?
少年は速い。グラウンド半周だが、ブッちぎりで走り抜き1番を取った。
―――そう言えば、私は走るのが好きだったっけ………

少年は1と書かれたフラッグを持って嬉しそうにその先の二人に駆け寄る。
それは、若い夫婦。
それは、私の知ってる誰か―――

「親父………お袋………」

小さい頃に交通事故で死んだ親父。
そして二年前に死んだお袋。

少年は俺の親父に強く頭を撫でられる。
お袋がそんな二人をほほえましく見ている。
そうか。あの少年は、
あの少年は―――私………

―――場面が変わる

これは、葬式?
思い出した………これは親父が死んだ時か。

私はお袋が泣いてるのをただただ見てるしか無かった。
まだ親父が死んだって言う意味をこの私は知らなかったっけ…
お袋がなんで泣いているのか、当時の私は不思議でならなかった………

次々に場面は替わってゆく。

お袋が女手ひとつで私を育ててくれた。
だから私はいつも家ではひとりぼっちで、それは淋しくて堪らなかった。
それでも早くお袋を楽にさせてあげたかったから必死に勉強したっけ。

大学に入って、卒業して、名のある企業に就職した。
そう―――今の会社だ。

「あ、あ………あ……あ…………………」

その月の初給料。私は全部お袋にあげた。
だけどお袋は「これは自分の為に使いなさい」と断った。

気持ちだけ貰っとくよ―――

そうお袋は私に言った。
あの時のお袋の微笑みは今も鮮明に覚えてる。


 

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