《MUMEI》
自由束縛
 
「あ、ああああ………」

程なくして私は結婚した。
社内結婚。
彼女に一目惚れして猛アタックしたのは私の方だ。

場面が変わる。

子供が生まれた―――
元気な女の子だ。
今は少し私に冷たい。反抗期に入ってしまった愛する娘。

「あ、ああ………ああああ……………」

知らずに頬を涙が伝う。
一体これは何だ?

場面は変わる変わる変わる変わる変わる変わる変わる―――

私は瞬きすら忘れる程食い入るように見た。全て脳に焼き付けられる。
いや、脳が溶けている。冷凍された思い出が解凍されていく。


…………

…………ここは、病室か?

お袋…、お袋が寝てる。
そうだ。末期の癌だった…。
治る見込みが少しでもあるのなら何度でも手術をした。私は何でもした。何にでも縋った………!

しかし、駄目だった。

痩せこけたお袋は、最後に「アタシで良かった。お前がこうならないで良かった」と私に精一杯微笑みかけて

―――この世を去っていった

狂おしい程に己の無力を嘆いたあの日。
よく覚えてる。まだ数年前の出来事。雨の日。葬式をした。

病気で小さくなったお袋は更に小さくなって骨壷に包まれた。

あの時から私の心は徐々に荒んで行ったのかも知れない。

私の心情など関係無く、窓硝子には次の場面が映し出される。

肩身の狭い会社内。
次々に出世していく同僚達に殺したい程嫉妬していた。

「これは―――今日の………」

私は会社内でミスを犯して年下の上司にそれを咎められた。
ついさっきまでの出来事。

そうか。不可思議なこのイベントもこれで、終わりなのか。

場面は、ゆっくりと、時の流れに乗るように変わっていく。


―――これが今まで見せられた映像群の最後を飾る映像だと、私は何となく分かった。


 

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