《MUMEI》
自由束縛
 
それから少し時間が経った。
列車は変わらず終点までの道程を滞りなく走っている。
………脚が見える。
青い女性は、まだ、いる。
さっきまでの不思議な出来事はこの女性が来てから起きた。
そしてこの女性は「来ます」と言った。たった今起きたこの出来事を予測していた。

いや―――いい、何も聞かない。私は何も見ていない。
きっとこれで良い筈だ。どうせ聞いたとしてもこの女性はシラを切るだろう。

そうだ、私が降りる駅はまだか?

早く、早く家に帰りたい。

―――と、青い女性は最後に、いつかした質問を再度、私に問い掛けて来た。

「貴方は、死が怖くない?」

それにすぐ答えた。即答。
前に返した答えとは全く違う答えを口から吐き出した。

「怖いね。怖いよ。少なくとも私は今、死ねない。私を必要としてくれる家族がいるし、何より親父とお袋から貰った命、無駄に粗末にしたり出来ない」

ああ、そうだ。
そんな当たり前な答えすら、今までの自分の頭には無かった。
さっきの映像のお陰だ。
今なら霊を信じて良いかも知れない。世の中には不思議が満ちている。私はそれを知らなかっただけ。

「そう、ですか」

言って青い女性は少しだけ微笑んだ。
それは人を安心させる微笑みと言うよりも―――

人を不安にさせる微笑み。


青い女性は席を立つ。恭しく私にお辞儀する。

「この度は、『走馬灯列車』に御搭乗頂き、ありがとうございます―――
もうすぐ終点です。くれぐれも、御忘れ物、無きよう………」

「な、なに……何だと? 走馬灯? お、おいお前は何を―――」

嫌な感じがした。
私も慌てて席を立つ。
途端、視界が歪んだ。
加熱された硝子のように不安定。
グニャグニャと世界が変わる。

何か重要な事を忘れている。

青い女性はもう見えない。
終点…終点、終点だと?
乗り過ごしたのか? なら戻らないと。私は帰らなきゃいけない。私の帰りを待ってる人が


「――――ハッ!!?」


風の抵抗が凄まじい。髪が引きちぎられるようだ。
落下している―――
あ、あああああそうだ私は、私は私は私は私は!!!!

何かを思うその前にアスファルトの地面が鼻の先―――




 

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