《MUMEI》
ようこそ白鳥相談事務所へ
 




【二○○五年 9/4 昼】





 
二日前の白鳥相談事務所―――





「え!? 依頼!? やったじゃないですか社長!
 仕事の依頼なんてもう一ヶ月近く来なかったって言うのに!」

マジですかー!なんて喜ぶ自分を余所に、そんな朗報を持って来た社長自身は髪を掻きながら「そうですねー」なんて気の無い返事をして、事務所内の冷蔵庫からコーヒー牛乳のパックを取り出す。

「………テンション低いですね社長、乗り気じゃ無いんですか?」

「乗り気じゃない訳じゃ無いんだけど、ちょっと依頼主がアレだからね」

コーヒー牛乳に口を付ける。
社長は牛乳は嫌いだがコーヒー牛乳は好きらしい。
どうでも良いけど、幾ら暑いからってシャツ一枚にパンツなんて格好の社長は脳が死にかけていると思う。

そんな社長を見ても何も思わない自分も何か終わってる感じがしなくは無いが、社長を可愛いだの何だの言えるのは外見だけで、内面を知り過ぎている自分にとっては外見などただの被り物に過ぎないと達観してしまっている。

「依頼主と一悶着あったんですか?」

当たり障りの無いように聞いてみる。
社長は短気だ。少しでもイラッとしたら口も出るし手も出る。
依頼主と揉める事なんてそう珍しくも無い。

「依頼主は、"蒼"よ」

クビグビと豪快にコーヒー牛乳を飲んで、パックを捻り潰してから社長はそう答えた。

「アオ?―――"蒼"?
 って事は内藤さんですか?」

"蒼"と言う単語にはかなり覚えがある。
それは俺も社長も良く知ってる人物。
だから咄嗟に前に自己紹介された時に覚えた名を口に出してしまった。

社長は俺をキッと睨んだ後、小さく丸められたコーヒー牛乳のパックを投げ付けてきた。

「水町。アイツの名前なんて全部出鱈目だから真に受けない方がいいわよ。
 あんな何を考えてるか解らないキモチの悪い奴なんて"蒼"で十分よ"蒼"で」


 

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