《MUMEI》
ようこそ白鳥相談事務所へ
 
 
 
 
 
ゴトンゴトンと規則的な音に包まれ電車に揺られてる。
今は帰宅ラッシュを少し過ぎ、そんなに人はいないように見える。
それでも自分は席には座らず、手摺りに背中を預け、もたれかかっている訳だが。特に深い意味は無い。

―――時期に日が沈む。
夕焼けの赤が濃い。瞼を閉じてもその赤さは鮮明だ。
こう心地良いと、懐かしい思い出………それが許可も無しに頭の中で再生されていく。

あれはちょうど一年前。



自分には他の人とは違った力があった。
みんなが非現実的と呼ぶ現象が見えてしまう。
霊なんてよく見る。よく憑かれる。そんな日常。
―――でもあの日、あの夜。
深夜のバイトの帰り道、デカくて丸いバケモノに襲われた。
そう、本当に急に。自分は命の危険に晒されてしまった。

それは結構ランクの高い魔物だったらしいが、その頃の俺にはそんな事知らないし意味も解らないだろう。
とにかく逃げた。逃げる以外にこいつから命を身を守る手段が無いからだ。

魔物は自分達に近いものを好むらしい。つまりそんな魔物達が見えてしまっている異常な自分は、彼等にとって御馳走の他無い。
今まで襲われなかった事こそ奇跡に近かった。

追い付かれたら押し潰される?
いや、喰われるのか?
どうなる? どうも無い、死ぬ。嫌だ。死ぬのは嫌だ。逃げた。逃げた。逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた。

どれぐらい走っただろう。
警察なんてこいつを見る事すら出来ないだろう。助けを願うのは無意味に等しかった。

乳酸が溜まった脚を休める。

そう。だから初めから逃げ切れる訳が無いと解っていた。
だからここで諦めた。
ここでこの訳のワカラナイのに殺されるのなら、それもまた運命。納得は出来ないがそれなら受け入れるしか無い。

俺は諦めた―――

でもその時、目の前に迫る化け物が裂けた。
綺麗に綺麗に、縦に裂け、辺りに青色の液体が舞う。


 

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