《MUMEI》
ようこそ白鳥相談事務所へ
 
 
 
それは未来永劫忘れる事の出来ない光景になった

月明かりが墜ちる街路樹
秋風に揺れる金色の髪
見る者を吸い込むかのような朱く紅く赤い真紅の瞳

一段と強い風に前髪をなぶられる
漆黒より尚深い黒色のスカートが優雅に舞う
月明かりが墜ちる街路樹
俺は呼吸すら忘れていた

「なに? あんまりジロジロ見てると殺すわよ」

そう―――
この世界は非現実的な事で満ちている





それが俺と社長の出会い。
忘れられない、出会い。
俺のターニングポイント。
俺の始まりの日。





少女は、にこやかに俺の前へと歩み寄ると、その細い腕を差し出した。
俺はそれに握手で返したが、片方の手でビンタされた。

「アホ。命助けてあげたんだから出すもん出すでしょふつー
ん……そうね、800万でいいわ。出しなさいほら早く」

何故自分はぶたれたのか? 赤くなった頬を摩る。
事態が把握出来てない。
800万?
余りにも突拍子の無い額。
頬がジンジンする。

しかし構わず少女はそう催促してくる。
この笑顔はマジだ。
払えないと自分はこのチビに殺されるのかも知れない。
しかしそんな膨大な金、俺にある筈も無く。

こうして不条理な借金が出来上がった訳。

そしてそして今の会社でタダ働き同然の生活を送ってる。
寝泊まりも事務所だ。
社長は家に帰ってるから疚しい事は何も無い。本当だ。

とにかくこんなの不愉快でならないが、生まれてこの方一番充実してて楽しいから、悔しいけど文句は言わない。
自分には知らない事があり過ぎた。それを少しづつ知れる喜びと充実感は大きい。
そして何より社長には金の為とはいえ命を助けて貰った。
そんな彼女の下で働けるのなら本望と言ったところか。
 
 
 


―――日が沈んだ。
この瞬間、この地域は夜に変わった訳だ。
バスから電車、電車から電車に乗り継いでようやく見えて来た蔵前高校。
気を引き締めよう。抜くと命を取られる危険がある。
俺は自分の左手を見る。
握り締める。

自分の仕事は社長のサポートだ




 

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