《MUMEI》

気が付いてはいたんだ。

あの箱に俺も物を詰めていたんだもの。
夜中に内緒で中身をひっくり返した。
皆は知っているのに知らないふりをしていた。
何をしても無駄だってことだ。
俺はそれが悔しい。


兄貴が好きだ。昭一郎よりも。
家族で一番だ。

だから離れるのは悲しい。

「みきすねはホントに俺が好きだよな。
これ、やるよ。」

兄貴の右耳からピアスが一つ失くなった。



「付けたい」


なんでそんなこと言ったのか。

浸みるような穿痛が右耳を炙り焼いた。

それは未だに癒えない。この穴と同じく兄貴との溝は埋まらないからだ。

俺は兄貴を好きだった。
純粋に憧れであり、目標だった。

「俺」と言いたくなったのも兄貴があんまりカッコ良く自分を呼ぶからだ。

国雄が歩けば誰しも彼を振り向く美貌の兄。
去り際に隣を歩くレイに抱いた反抗心は計り知れない。

俺の大事にしていたものを取られたと思った。


事実を知るまでに時間がかかることとなる。

初めて付き合った彼女が口にした別れ際の一言。

「国雄の弟だから大丈夫だと思った」

年上で経験豊富な彼女が顔を歪ませて泣いた。

兄貴は俺にとって、兄貴でしかなかったのに。

見たくもない真実が綻び始める前兆だった。




心当たりがある。
執拗に俺から兄貴を離そうとした父と母。
部屋数が少ない中、兄貴は個室で兄弟バラバラに離されていた。

俺には口煩いのに兄貴の朝帰りには寛容で食事も家族と別に部屋で摂っていた。


……隔離だ。
異質な者への脅威だ。



兄貴は幼い頃から魔性と呼ばれていたらしい。

五股六股は当たり前でこの近辺で兄貴のオンナじゃない人を探す方が難しいとまで言われていた。

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