《MUMEI》 一安心翌日‥俺はカーテンの隙間から漏れる朝日に顔を歪め、目を覚ました。 相変わらず有河原樹は呼吸を繰り返しているだけだった。 俺はうんと伸びをした。 「…ったく…部室で昼寝してるなんてバカだな…」 俺は目を擦りながら呆れ口調で言った。 「バカで悪かったね。」 俺の体は長い間、静止した。 目覚めていないはずの有河原樹は目だけを俺に向けていた。 「………幻聴?」 「本物だ。ボケ」 有河原樹は眉間にシワを寄せながら言った。 「…あの…夢…?」 「現実だ。ド阿保」 俺はただただ目を丸くするだけだった。 「なんでこんなとこにいんの?もう部活の時間じゃねぇの?」 「きょっ‥今日は朝稽古‥だった!」 「まだ5時なのに‥朝稽古終わったんだ」 有河原樹はニヤリと口角を上げた。 (‥この野郎‥) 俺は頭に血が昇っていくのがはっきり分かった。 でも、意識が戻った事に笑みがこぼれた。 有河原樹はその顔を見て驚いていた。 「なんだよ‥?」 「いや…沢村のまともな笑顔…初めて見た・・から・・。いつもなんか怖い顔ばっかだったから‥」 「勝負事を真剣にやってただけだ」 「それが悪いんじゃね?」 「は?」 俺は有河原樹の言葉に顔を歪めた。 「勝負事は勝つためにあるのかもしれないけど…全部が全部勝たなきゃいけないもんじゃないだろ?」 俺は無意識に首を縦に振った。 「沢村は勝つ事を意識しすぎなんだ。勝つ事がすべてじゃない…。そうやって剣道もやって来たのか?」 俺は相槌を打ちながら話を聞いていた。 「いや…剣道は好きだったから…」 俺がそういうと、有河原樹はどこか嬉しそうだった。 「…俺も…そう親父に言われたんだ…」 前へ |次へ |
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