《MUMEI》
犯人
「…大丈夫?」
「…」


まだ、高山の姿が目に焼き付いていた。


俺は、廊下の長椅子に腰を下ろした。


「ごめんなさいね。お姉ちゃんが、あなたに会いたいって言ったから」


(…わざわざ、カラオケ行けなかったくらいで?)


その位で、あんな目に遭った翌日、人に会うかは疑問だった。


「あなたは、…」
「…はい?」
「いえ。…これは、私から言う事じゃないわね」


俺を見下ろしていた貴子さんが、隣に座った。


「犯人は?」
「捕まったわ。…お姉ちゃんが、無抵抗であんな目に遭うなんて…犯人は、あいつしか、考えられなかったし」

「あいつ?」

貴子さんは、頷いた。


「あいつって…」
「お姉ちゃんの…

元、旦那よ」


貴子さんは、淡々と、高山に似た、しかし、もっと冷たい口調で、語り出した。

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