《MUMEI》
優しさ‥
その一言で、嬉しさからか涙が溢れた。

「ありがとうございます‥好きでいさせてくれて‥あ‥りがと‥ござい‥ます‥」

雲雀さんは何も言わず、あたしが泣き止むまで頭を撫でてくれていた。





太陽が真っ赤に染まった夕方。
あたしはストップウォッチを持って、ゴールラインに立っていた。
雲雀さんはスタート地点でスタートブロックを調節している。
「雲雀さーん!大丈夫ですか〜?」
雲雀さんはブロック調節を終えると、足首を回しながら手を振った。
あたしは出来る限り息を吸い込んだ。
「位置について‥‥」
雲雀さんはブロックに足を乗せ、地面に手を付いた。
「よ〜い‥‥」
雲雀さんは顔を前に向け、手と足を支えに体を浮かせた。

「ドンッ!」

雲雀さんは力強くブロックを蹴り、矢の如くレーンに飛び出した。
それと同時にあたしはスイッチを押した。
文字板が数字を刻む毎に胸が高鳴る‥。
雲雀さんは真っ直ぐこっちに真剣な目を向け、一歩一歩と強く地面を蹴りつけながら走った。
―あと少し‥
あたしが思った直後に雲雀さんがゴールラインを踏んだ。
あたしは反射的にスイッチを押した。
雲雀さんは息を整えながら歩いて来た。
「雲雀さん‥今のタイム‥‥11秒16です!」
雲雀さんの顔が太陽の様に輝いた。
「あの…」
「自己ベスト更新おめでとう」
突然声がしたと思うと、伊藤さんがタオルを持って歩いて来た。
「こんにちは律ちゃん。…はい雲雀…タオル」
「どうも」
雲雀さんは青のタオルを受け取り、タオルに顔を埋めて汗を拭いた。

伊藤さんはあたしに目を向けた。
「マネージャーならこういう事はきちんとこなすべきよ」
「へ?…マネージャー?」
あたしが聞くと、雲雀さんが笑った。
「アハハ‥伊藤先輩がさ『なんの関わりも無い子と仲良くするな』って言うから、律ちゃんはマネージャーって事にした」
あたしはポカンとした。

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