《MUMEI》
仕事
次の日も汐莉はそこにいた。
「遅い!人を呼んどいて遅れるなんて最低」
「お前来るの早すぎなんだよ。でも…ごめん」
「別にいいけど」
汐莉は今日も白いワンピースを着ていたが、そんなことを気にする様子もなく、土の上に腰を下ろしていた。
「高春って今どんな仕事してんの?」
「オレ?医者に決まってるだろ」
「医者!?本当に?」
「当たり前だろ。約束したじゃん」
汐莉に言われた。せっかく頭いいのに夢がないなんてもったいないから、将来は医者になってここに帰って来て、と。
そして私が今ここにいるということをその耳で確かめて、とも言った。
もし冗談で言ったのだとしても、今のオレにとって医者は目標だし、生きがいになっている。
「汐莉が言ったんだよ。だからオレは守っただけだ」
「高春……」
それっきり汐莉は黙りこんでしまった。
しばらくして、蚊の鳴くような声で言った。
「私……高春に言ったよね。今、私がここにいるということをその耳で確かめてって」
「…うん」
「意味わかって約束守ったんでしょ?」
「心臓の音を聞いてくれってことか?」
「そう」
汐莉はまた黙りこんでしまった。そしてそのまま立ち上がった。
「明日も……来る?」
「来るよ」
満足そうに微笑むと、汐莉は消えてしまった。
何か変だった。
急に元気がなくなって、悲しいような、うれしいような微妙な表情だった。
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
ケータイ小説サイト!
(C)無銘文庫