《MUMEI》
真実
次の日、汐莉はオレをどこかに連れて行った。

今日も白いワンピースだった。

「どこ行くわけ?」

「大切な用事があるの。」
「それとオレは関係あるのかよ」

今日も暑い。空気がじっとりとしていて、息苦しい。日差しも何もかもが強烈で、よくこんなところに観光客も来るよなと感心してしまう。

「高春、着いたよ」

「ここ…お前ん家じゃん」
前に何度も送り迎えした、汐莉の家。白い塗装に、特有の平べったい屋根。

どこからか猫がやって来て、こっちを不思議そうに見つめている。

「ちゃんとわかってるんだ、この猫」

「何が?」

「いいから入って!」

そう言うと汐莉はインターホンを押した。

茶色のドアがそっと開いた。

「どちら様ですか?」

やや年配の女性が顔を出した。

「あ、オレ…汐莉さんの」
「もしかして……高春くん?」

「え。オレの名前どうして……」

「入って」

後ろにいたはずの汐莉は気づいたら姿を消していた。
女性に通された部屋には仏壇があった。

「あの子に声かけてやってもらえないかしら?」



あの子……?

仏壇の遺影に目をやった。目が丸くなるというのはこういうことなのかと、初めて知った。

「汐莉……、お…お前……。嘘…だろ……」






汐莉はすでにこの世の人ではなかった。

「大丈夫ですか?」

「お、おばさん、オレ汐莉に会ったよ?おとといも昨日も今日も、今さっきだってオレ、あいつと一緒にここまで来たんだ。ずっと話してたんだ。どうして……」

「そう……汐莉、あなたに会いに来ているのね。言ってたわ、死ぬ間際まであなたのこと。あの子の最期の言葉は『高春』だったのよ。ごめんね、ごめんねってずっと謝ってたわ」

汐莉の家を出ると、汐莉が門の外で待っていた。

「あんたが帰って来るのを10年間待ってた。私が死んだのはあんたが東京行った日。急いで空港へ向かってる途中で事故に遭った」

涙が止まらなかった。

「待ってたのは、お別れを言うためだけ。それだけ」
後悔してもしきれない。

「あんたが素直に謝れるようになってて驚いた。人間としても成長したね。高春、逃げるのはこれで最後にして。しっかり生きて欲しいの。今のあんたには守るべきものがあるんだから」

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