《MUMEI》

 俺等は部活が終わって倉庫の片づけをしていた。
「えっと・・池田・・橋本・・大沢・・今日はお前等が片付けだからな。よろしく」
 1年生が片づけをする。片付け当番が日替わり制であって、俺等は今日だ。
「はい」
「銀也、おまえすげぇな。また新記録出したんだって?」
「あぁ・・まあな」
「3年の××先輩よりも速いんだって?」
 ついに、銀也は部活内でトップになった。
「ほんとすげぇよ」
友祥がい言う。
「んなことねぇし」

「おいっ、一年。池田は第一倉庫にハードルを戻しに行ってくれ」
「はい」
「大沢は第二倉庫に他の倉庫の鍵があるから取ってきてくれ」
「はい」
「橋本は・・ここにあるものを片付けてくれ」
「はい」

 俺と友祥も別れて、それぞれ別の場所へ行った―。
 それが辛い道だなんて思わずに―。


 俺は第一倉庫に走って向かった。倉庫は三つあって、グラウンドの三方向に分かれている。

「えっと・・・」
 ハードルを片手に抱えて中に入った。
 ボールの匂いだろうか。倉庫特有の匂いがする。
「ガラガラ」
 誰かが倉庫に入ってきた。
 ハードルをしまってから振り向こうと思ったが上手く入らず時間がかかってしまった。
「ガシッ」
「ぃて・・・・」
 手首を思いっきり掴まれる。ゴツゴツした細い手で力もあるから男子だろう。
 そんな事を考えているうちに・・俺は脚を蹴られて転んだ。
 俺の頭に大きな痛みと衝撃が走った―。
 それから俺は、痛みを感じながらも・・攻撃する奴を止めようとしたが・・頭からの痛みが体を静止させた。
 腹を思いきり蹴られた。
「ッ・・・・」
「誰にも言うなよ。言ったら何倍にして返してやる」
小さくて聞き取りにくかったがたぶんそういったんだろう。
 俺は・・体中からの汗と・・流れ落ちる水滴を体で感じる。体中の痛みで立ち上がる事ができなかった。
 手を頭まで伸ばすと・・おでこのあたりだろう・・・赤い液体がすべりおちていた。

 スッと頭によぎったのは銀也と・・友祥だった。
 あいつら・・・二人もされていると思うだけで鳥肌が立つ。
 二人のことを考えたら足が進んだ。
 一歩進むたびに体から汗が出てくる。
 比較的近い第二倉庫に向かった。
「友祥・・・友祥・・・・」
「あぁ・・涼哉??」
 友祥の姿もぼろぼろであった。ただ・・血が出ていなかっただけましだっただろうか。
「銀也は・・?」
「銀也・・・銀也が・・・」
 俺と友祥は目を合わせた。
 銀也はついに3年生のタイムまで抜かしてしまったんだ・・そいつを恨んでいるとしたら・・・今頃銀也は・・・。

「走ろう」
「だな」
 体中からの液体が痛みを物語っていた。それでもただひたすらに・・銀也の元へ走った。
「銀也ッ!!」
「何・・・?」
 そこには平然と立っている銀也がいたのだ。
「銀也・・お前・・大丈夫だったのか?」
「友祥・・涼哉どうしてそんな・・・」
「さっき倉庫で・・・」
「誰が・・?」
「分からなかった。暗くて顔が見えなかったし・・でも男だった」
「俺もそう思う」
「大丈夫かっ・・」
「あぁ・・・」
「涼哉・・頭から血がでてる・・・」
 出血の量は多かったようだ。
「大丈夫か・・・先生呼んでくる」
「呼ぶな・・」
「でもっ」
「次あいつに何されるかわかんねぇ」
「・・・・ッ・・・・チクショー・・・俺・・・・お前等に何にもしてやれねぇ・・・・」
銀也は涙をこぼした。
「ごめんな・・・おれのせいかもしれねぇ・・・」
 確かに・・タイムをだしたのは・・銀也だった―。
「銀也は悪くない。俺等を傷つけた奴が悪い」
友祥が言う。
 俺は・・・・すぐに銀也は悪くないと言えなかった。
「銀也は悪くねぇよ」
俺は友祥に続けて言った。
 3人を見下ろすように空は赤く染まっていった―。

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