《MUMEI》
秘密
「オレの秘密、知ってるんだな」

「知らない。結婚してんのって後ろめたそうに聞いてきたからなんとなく」

オレはぽつりぽつりと逃げてきた理由を語りだした。
「オレの恋人…結子って言うんだ。4日前に妊娠したよって、うれしそうな顔して言って来たんだ。そしたら急に怖くなった。どうしてかはわからないけど」

「それで家から逃げてきたの?」

「ああ。探さないでくださいって置き手紙して」

「それで…?どうするの?」

「東京へ帰るよ。もう逃げたりしないって決めたから」

「……そう。私もそろそろ行かなくちゃ」

汐莉は泣いているようだった。

還るべきところへ還るものなんだ、人は。

オレは東京へ、汐莉は天国へ。

でも大丈夫。オレはまたここに還ってくる。
そんな予感がオレを放さなかった。


「汐莉、言ってごらん。ほらママって」

「汐莉、パパの方が言いやすいと思うなあ」

「あ…あっあっ」

「頑張って!」

「もう少しだ!」

「まー……ぱっ」

オレと結子は顔を見合わせて吹き出した。


‐‐‐‐‐END‐‐‐

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