《MUMEI》

変なやつ。

こんな雨の日に、
木から落ちてくるし、
裸足だし…


…同じクラスだったのか。


久しぶりに、学校のやつと喋った気がする。


早く一人になりたかったから、無視しようと思ったけど、


ついて来るし、
雨止むまで動けないし…



まあいいか、と。



俺が名前を言うと、棗は大きな目を更に大きくして、
俺を見つめた。


俺はすぐに目を逸らす。



瞳は、一番強く、相手の感情を語るからだ。



「えみって…!?
二階堂君、えみっていう名前なの!?」


驚いた声。



笑う、と書いて『えみ』。


…母親が付けた名前だ。



『笑顔の絶えない人生を送れるように』



―…と、願って。



笑い方も忘れてしまったこの俺には不釣合いな、
女みたいな名前。



「ねえ、ねえ!!」


棗が俺のシャツの袖を引っ張る。


俺が振り向くと、


棗はにっこりと微笑んで、地面を指差した。


地面に書かれた
『棗』と『笑』の間に、


『恵実』


という文字が書き足されていた。



俺が棗に視線を戻すと、


棗は、


「いっしょだね!!」


と、くすぐったそうに笑った。




…なぜだろう、その時…


俺の目に映る世界に、一瞬だけ―…



一瞬だけ、色が戻ったような気がした。

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