《MUMEI》

陸は背を向けたままグラスを傾けている。

…話たのか。





「後2日しか居ないんで正直俺も時間もありません、また誘って下さい」



「…そうか、じゃ後で連絡させて貰うよ」





裕斗は一気にグラスを空けるとすっと立ち上がった。





「ご馳走様でした、失礼します」




「もう少しゆっくりしていったら良いのに」





陸はそう言いながら裕斗に近づいた。



「いえ、遅くにすみませんでした、ご馳走様でした」




裕斗は落ち着いた表情で陸に微笑んでいる。




若干陸よりも裕斗の方が背が高い。




本当に…大きくなった。




「分かった、じゃあせめて部屋まで送らせてくれ」

俺がそう言うと


裕斗は少し間を置いて「はい」と言った。







スイート専用のエレベーターを降る。





それは夜景を楽しめるかの様ゆっくりとしたスピードで。




裕斗はそれに見入ってる様子で俺の方は向いていない。




「母さんと真菜は元気か?」




「相変わらず元気ですよ」




「そうか…」





この前恭子と電話で話た時真菜の大学合格の話を聞いていた。




相変わらず援助は断られてしまったが…。




「生活には困ってないか?俺に出来る事なら何でも言って欲しい」




すると裕斗はゆっくりと俺の正面を向いた。




「俺は自分の足だけで歩いていきます、
まだまだ父さんから見たら頼りないかも知れないけど…、一人で頑張れる立場が今は楽しくて楽しくて仕方がないんです」


すっかり…大人の男の表情だった。




エレベーターが一階に付き二人降りる。





「真菜にも…同じ事言ってやってくれませんか?どう返答するかは分からないけど」




「勿論、当然だよ」







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