《MUMEI》
陸は背を向けたままグラスを傾けている。
…話たのか。
「後2日しか居ないんで正直俺も時間もありません、また誘って下さい」
「…そうか、じゃ後で連絡させて貰うよ」
裕斗は一気にグラスを空けるとすっと立ち上がった。
「ご馳走様でした、失礼します」
「もう少しゆっくりしていったら良いのに」
陸はそう言いながら裕斗に近づいた。
「いえ、遅くにすみませんでした、ご馳走様でした」
裕斗は落ち着いた表情で陸に微笑んでいる。
若干陸よりも裕斗の方が背が高い。
本当に…大きくなった。
「分かった、じゃあせめて部屋まで送らせてくれ」
俺がそう言うと
裕斗は少し間を置いて「はい」と言った。
▽
スイート専用のエレベーターを降る。
それは夜景を楽しめるかの様ゆっくりとしたスピードで。
裕斗はそれに見入ってる様子で俺の方は向いていない。
「母さんと真菜は元気か?」
「相変わらず元気ですよ」
「そうか…」
この前恭子と電話で話た時真菜の大学合格の話を聞いていた。
相変わらず援助は断られてしまったが…。
「生活には困ってないか?俺に出来る事なら何でも言って欲しい」
すると裕斗はゆっくりと俺の正面を向いた。
「俺は自分の足だけで歩いていきます、
まだまだ父さんから見たら頼りないかも知れないけど…、一人で頑張れる立場が今は楽しくて楽しくて仕方がないんです」
すっかり…大人の男の表情だった。
エレベーターが一階に付き二人降りる。
「真菜にも…同じ事言ってやってくれませんか?どう返答するかは分からないけど」
「勿論、当然だよ」
・
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫