《MUMEI》

結局二人外に出て、ホテルの庭のベンチに座った。





今度は俺が煙草に火を付けてやる。





少し屈んで俺に近づく仕草が何だか擽ったい。



僅かに揺れた軟かそうな茶色の髪は子供の頃から全く色が変わっていない。





「恋人は居るのか?」




「今はいません…」





「そうなのか、しかし…もてるだろ?」




「そんなには…、はは」




「まあ若い内は遊んだ方がいい、後で目移りしない様に…」



「ふふっ、それは父さんの事言ってんの?」




裕斗は苦笑いしながら煙を一気に吐きだした。




「…まいったな」





裕斗は俺が25の時の子。
恭子はまだ21だった。





プロのサッカー選手だった俺は当時駆け出しの女優だった恭子に一目惚れした。





それはもう今まで出会った中で一番良い女だった。









なのに、俺は陸を選らんでしまった…。




全てを棄てても無くしても良いと想える相手に、出会ってしまったから。





「父さんは今…幸せ?」





「ゆう…と?」






ドキッとする程真っ直ぐに俺を見据えてくる。








「…幸せだよ」




「そう…」




「裕斗…?」






裕斗はふと笑うと立ち上がり俺に背を向けた。





「俺ね、本当に父さんの子なんだなって…
父さんが部屋に入ってきた時に実感したよ…。
大切な人が既にいるのに…、この人じゃなきゃダメだって人に出会ってしまって、俺は大切な人を一人にした。
でも俺は父さんより酷いかも…
折角出会った人まで裏切って、全く他の奴とも寝たりした…」





「裕斗…」






「俺は父さんを責める資格もないし、うらんでもいない。ただ…
母さんが…真菜がかわいそうだって…それだけだから。
俺は…一生の人に出会ってしまう衝撃は…良く分かってしまったから…
だから父さんが幸せなら、それを貫く覚悟なら…、佐伯さんとの事応援するよ」





「裕斗」






俺は裕斗を後ろから抱きしめずにはいられなかった。



大きくなったわりには細い躰。




腕の中にすっぽりとおさまってしまう。




裕斗は俺の手を緩く握る…。




「裕斗は今…幸せなのか?」




「多分…幸せかな」

「すまない…父親らしい事何も出来なくて…」





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