《MUMEI》

―…雨の気配は、感じ取れる。

だから、いつ止むのかも判る。


俺に備わっている、もうひとつの能力―…




それは、『感じる』ことだ。



人の気持ちも、それが強いものであれば、感じ取ることができてしまう。



…だから、怖い。



周りの奴らの、強い嫌悪感だとか、


憎しみとか、嘲りとか―…



俺は、そんな『負』の感情を感じ取ってしまう。



だから、他人とこんなに喋ったのは久しぶりだったのだ、


本当に。



あいつは俺を、すごい、と言った。


…俺が虹を架けたみたいだ、と笑った。


俺はなんて答えればいいか分からず、

逃げるようにその場を去ってしまったけど。




―…あいつ、棗からは『負』の感情を感じなかった。




なんであんなとこに居たのかも、


裸足だったのかも、
懸命に俺に話しかけてきたのかも…


理由は判らなかったけど




空を見上げたとき、確かに―…





確かに、おれの眼に映ったのは





『七色の』虹だった。



本当に、変なやつだった。




…でも、俺は、今日―…



笑い方を、思い出した。



自然に、笑うことができたんだ。

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