《MUMEI》 退院高山が、入院して、約一ヶ月後。 俺と祐希が病室に入ると、室内の荷物は片付いており、高山はパジャマから洋服に着替え、ベッドに腰かけていた。 「志穂。今日退院だって?」 「う、うん」 最近俺は、高山兄妹に接触する機会が増えたので、高山を『志穂』と呼ぶようになっていた。 志穂はまだ呼ばれなれないせいか、その度に赤くなる。 最近の志穂は、何だか可愛い。 それに、志穂が素の姿を現してから、俺は、志穂に触れる楽しみを覚えた。 ―ただし、あまりすると一緒に見舞いに来る祐希が嫌な顔をするので、少し控えてはいる。 「相変わらず慣れないな、志穂ちゃんは」 「うるさいな…」 祐希は、からかうように、志穂を『ちゃん』付けで呼ぶようになっていた。 志穂には、一応俺達の事を、『慎君』『祐希君』と呼ぶよう言ってあるが、本人は照れがあるようで、滅多に呼ばなかった。 ―その時 コンコンッ 病室の出入口を、誰かがノックした。 前へ |次へ |
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