《MUMEI》

少年は手探りで手放してしまった袋を探し、中から注射器とアンプルを取って出す
なんとかアンプルの中身を注射器へと入れ替えると、針先を深沢の腕へと刺していた
どうやらそれは鎮静剤のようで
深沢から、とたんに力が抜けていった
落ちてくる彼の身体を受け止めてやれば
「……陽炎」
ねむりの際にそんな呟きが聞こえる
何の事かわかる筈もない少年は、とりあえず身を起し深沢をベッドの上へ
寝かせてやれば、ひらりと幻影が姿を現した
飛んで遊ぶその様は何となく楽しげで
そしてふわりとその姿は消えてしまっていた
その様を眺めみていた少年は、何を思ったのか突然に紙とペンを探し出す
出かける旨をそこへと書きなぐった後、
足早に出かけて行ったのだった……

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