《MUMEI》 学生生活も慣れてきた。 俺は誰にも咎められずに……とまではいかなくとも自由に遊んでいられる。 遊びの友人には何不自由しないという意味だ。 俺が欲しいものは手に入れかけた。 レイはキスまでなら許すようだ。 昭一郎の幻影に捕われながらレイは前向きな女学生だった。 昭一郎の想い人は分からずじまい、それでしょうがないとさえ思えるほどに時間は清算してくれた。 愛知とモエ姉ちゃんの入籍もそんな時に聞いた。 「私あの人苦手」 レイの口から非難を聞いたのは久し振りだ。 「何故?」 「姉さんに取り入ろうとしているみたい。時折見せる笑顔の後の疲労顔、能面だわ。」 あの、愛知が能面? 無理をしているということか。刺された女と入籍だなんて、愛知は変わっている奴だ。 「姉さんが今度昭一郎も入れてみんなで食事しましょうって。」 嗚呼、嫌な予感。 最悪の取り合わせだ。 忘れかけていた歯車が廻り始めた。 「いいところでディナーだから正装ですって。」 「……おい、喪服用のスーツしかないぞ。」 「私も姉さんと何着るか話さないと。」 相談するような兄弟仲でもないし、実家には帰りにくい。 ……ジィさんあたり聞いてみるか。 唯一背丈も合うし、話しやすい。俺が一方的に話すだけなんだけど。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |