《MUMEI》

ロイの剣舞は小金稼ぎにするものではなく格式の高い伝統的なものだった。

柄を握るのではなく指先で弾き、体の一部が離れてはまた戻る、そんな繰り返しだ。

剣舞は伝統芸として保護される文化に指定される程に退化したものであったので、王の付き人も驚愕した半面、貴重なものを拝めたと胸中は興奮したに違いなかった。

同時にそんな「訳あり」の王子が何故メイド一人を連れてこのような辺鄙な国に立ち寄ったのか疑問が浮かばずにいられなかった。

旅芸人や商人ならばやってくることもある、しかし、王子と名乗り出て、王族の高尚さを見せ付ける者など今まで無かった。


嫌な予感がする。
誰がからという訳も無く、ただ嫌な不安だけが底に沈澱した。

麗人の王子と聖女のようなメイド。

王は無知であるが故、この砂漠の城にやって来た二人には微塵の疑問も持てない。

しかし、だからこそ王はこの国を統治できた。
この国は王を満たすための砂の城であるからだ。王の名前は王。それ以上でも以下でも無い。

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