《MUMEI》
閃光
「……今、何が?」

羽田は震える自分の手を握りしめながら言った。
マボロシが倒れて消えた場所には、真ん中部分が僅かに変色した鉄の棒が転がっている。

「まさか、先生がマボロシを倒すなんて……」

「え、やっぱり今のってわたし……?」

凜は静かに頷いた。

「でも、信じられないです。だって、つい数日前までは確かにマボロシにはわたしの姿は見えてなかったはずなのに……」

凜は考え込むように顎に手をあてた。

「あの、津山さん?考えてるところ申し訳ないんだけど」

「なんですか?」

「なんだか、また来たみたい」

「え……?」

凜は羽田が見ている先へ視線を向ける。
そこにはさっきと同じような犬型のマボロシが数匹、道を塞ぎ、よだれを垂らしながら立っていた。

「これは……まずいですね」

言いながら凜は後方を振り返る。
二人の後ろにも、同じように数匹のマボロシが唸り声を上げていた。

「どうする?」

羽田は自分が教師であることを忘れ、すがるように凜を見つめた。
しかし、凜は緊張した表情で首を振る。

「逃げ場は、ないですね」

「そんな……」

羽田が悲鳴にも近い声をあげた時、前方に閃光が走った。

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