《MUMEI》

俺は、志穂の手首を掴んだ。
入院生活が長かったせいか、志穂の動きにいつものキレや力強さは無かった。

「…っ」
「いつかの逆、だな」

悔しそうな志穂を見て、調子に乗った俺は、…

ダンッ!

もう片方の手首も掴み、志穂を壁際に追い詰めた。

「な…に…?」
志穂が、不安気に俺を見上げた。

「ん? せっかく俺を男として見てくれたから、サービスしようと思って」

俺は、志穂の両手首を片手で志穂の頭上に押しつけると、自由になったもう片方の手の親指で、志穂の唇を撫でた。

「『初恋の君』と間接キス、してみる?」

すると、志穂が俺の足の間に自分の足を絡めてきた。
―そして…

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