《MUMEI》

「ハハッ、したくてもさせて貰えなかっただけでしょ」





裕斗は俺の腕から抜け出し、頬にキスをしてくれた。





それは13年ぶりの…息子からの…。






俺よりも少し黒が強い眼が揺れている。






――俺からも頬にキスをした。






唇に僅かにざらつく感触。





いつの間にか自分の息子が、髭位当たり前に生えてくる年齢になっていた。











「…もしかして裕斗がハワイに来るの知ってて…ここに来た訳じゃないよな?」





「考え過ぎ、本当に偶然だって…」





愛しい相手の肌に唇を寄せるとベッドが僅かに軋んだ。





聞き慣れた甘い吐息、熱い肌。




知り尽した躰をなぞる度、細い脚がシーツを擦り、愛しそうに俺の髪をまさぐる。




俺のブロンドを通り越し白に近い髪が陸のお気に入り。




自分意外の人間に触らせる事を酷く嫌う。





しかしさっき、裕斗が俺の髪を久し振りに触ってきた。





子供の頃、裕斗は俺の髪の色が好きで良く触ってきていた。




2歳位までは同じ色だったんだよと言うと、大人になった頃また同じ色になってたらいいなと何回も言っていた。





それなのに今は、同じ色にならなくて良かったと言われた。



どうしてと聞くと






『好きな人が今の髪の色を気に入ってるから、誰にも触らせるなって言われてる』






おかしくて思わず無造作に撫で回してしまった。
すると裕斗も無邪気に笑いだした。






髪の色は違っても親子なんだと実感した。





どうやら裕斗はあの若さで最後の人に出会えたらしい。





「ちょっと、俺以外の事考えてる?」



陸のわざと拗ねた表情。
演技でしかないのは分かっている。



「こんなにも美しい君を目の前にして他の事なんか考えられる訳ないだろう?
愛してるよ、陸…」




陸は満足そうに微笑み眼を閉じた。




背中に回る腕、愛しそうに手の平が移動する。


一つになり全身を揺らし合いながら、今日も愛する人と過ごせた事に幸福を感じた。







――償いきれない罪。

償いたくても償えない自身の愚かさ…。





――失えないあたたかなこのぬくもり…。






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