《MUMEI》

「なあ、アナウンス部門も見ないか?」

俺の発言にあんぐり、というふうに高遠は見た。

「別にいいだろう?俺が何を見たって」

自分にフォローを入れてみた。

「いやー別にそうなんですけど。他当たってください。」

やんわりと高遠に断られた。じゃあ東屋だな。
じゃあって本人に失礼ですが。

俺だって七生ばかりじゃないし、離れるときもある。

だから、今日は東屋がどうしてもというもんだからこうして仕方なく七生の朗読を見る羽目になったのだし、不可抗力さ。

きっとそうだ。

こんな緊張するのだって気のせい気のせい。

七生を見てそれが増すのだって気のせい。



だから七生なんかなんともない。


たまたま七生の読む時間と被ったから見てやらないこともない。


七生の一声で森鴎外の[舞姫]が動き始めた。
七生は読み上げることで演じるより忠実に内容を聞く人へ伝える。




皆七生を見ている。……そりゃあそうか。
七生が一番なんだから。
かっこいいんだから。

「木下顔赤い。」

東屋が覗いて来た。

「は?なんともない、なんでめないから。」

「噛んだな。」

ボロが出た……。

「なんでもないよ。」

「風邪かと思ったけど違うみたいだな。」

溜息をつかれた。愛想もつかれた?

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