《MUMEI》

「ごめんね、お待たせ」
「いや、まだ待ち合わせ五分前だし」

いつものやり取り。

ただ、ここに、祐希がいないだけだ。

「良かった。切符買った?」
「これから」

俺と志穂は、切符売り場に向かう。

(…ん?)

まだ視線を、感じた。
しかし、視線の先にあるのは、俺ではなく、志穂だった。

(まぁ、目立つ、よな)

志穂は、モデル並のプロポーションだし。
今日は、ショートパンツにロングブーツという組み合わせだから、特に美脚が際立っていた。
それに加えて、顔も小さくて、整っているし。

比べて俺は、服装も、見た目も普通だ。

きっと、彼氏にはふさわしく見えないだろう。

「…? 何? どこか、変?」
心配そうに志穂が自分の服装を確認したから、

「いや、綺麗だよ」

と、俺は柄にも無く言ってみた。

(本当の事だし…)

すると、志穂の顔がみるみる赤くなる。

こういう志穂は、俺は本当に可愛いと思う。

そして、そんな風に志穂がなるのが、身内以外では、俺といる時だけらしいから、最近は、その事が何だか嬉しい。

「き、切符買わないとね!」
志穂は、俺から目をそらして、目的地までの値段を確認し始めた。

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