《MUMEI》

俺は切符代をおごるつもりでいたが、断られた。

駅のホームで電車を待っている時に、帰りの分はおごると俺は切り出してみたが…

「いいのよ」
と志穂に笑顔で断られた。
(この有無も言わせない感じ…)

やっぱり、志穂も高山家の一員だなと俺は実感した。
その時、アナウンスが流れ、電車が入ってきて、扉が開いた。

さすがに中は混雑していたが、密着しつつも、何とか二人で座る事ができた。

「これは、不可抗力だよね?」
「ん?」
俺が、意味が分からず首を傾げると…
「慎君に触ると、祐希君に怒られるから」
と、志穂が軽い口調で言った。

「仕方ないよ、これは」
「…そうよね。私から触ったわけじゃないし」
俺がフォローすると、志穂は安心したようだった。

(確かに…)

志穂から触ったら、祐希は怒りそうだなと思った。

(それなら…)

俺から志穂に触ったら、祐希はどうするのかと、ふと思った。

最近、俺は妙な衝動にかられる。

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