《MUMEI》

「てっきり塞がっているものだと思ったのに」

全く俺に対する信頼が無くなったという訳でもなさそうだ。

幹祐に空けてやったピアスホールを見て安心した。

敵意を皮膚の下に隠したものの中で幹祐の存在は何処か気が休まる。

幹祐の空いた方の耳たぶを指先で弾いた。

「……あッ」

軽い脳震盪のように背骨を反らせて幹祐は崩れかけた。以前より髪が伸びているので支えに回る手は髪にあたる。

「体重が身長に釣り合っていないな。
あーあ、肋出てんじゃん」

シャツの隙間から覗く肌は華奢なものだった。

「[兄貴]には関係ないから……」

国兄から兄貴の固有名詞になって気付く。
俺はもう幹祐の一番ではなくなったと。


成長というやつだ。

「国雄、ご飯は?」

「要らない。日帰りのつもりで早く来たんだしジィさんに用だから。」

ジィさん達の方がオフクロよりはマシだ。

「いくら必要なの?」

…………嫌な言い回しだ。

「スーツが買いたい。」

追い出したいのか俺を。
それならそれでいい。

疫病神がやってきたのだから、少しくらい捨ててやらなきゃな。


「ごっめーん国雄!私泊まることになった。」

「……ふーん じゃ、俺もこのへんで。」

「ウソ、早いわよ、来てから一時間経ってない!」

分かっているくせして、俺の口から言わすなんて悪趣味にも程がある。

「国雄は周り気にしすぎなのよ」


「いつ俺が気にしたってよ?」

レイに言われたくはない。

「ずっとよ。貴方が気にしているのは他人から見た自分の形をしている他人なのよ。」

「……難しい哲学押し付けられてもな。」

逃げだ。
俺がここで怒りを表明すればまだ良かったのかもしれない。
互いに傷を確認していても触れない。俺とレイが友達でも恋人でもない決定的な理由だ。

俺は格好付けようとするから格好悪い。

そしてまた会うときは忘れてたのを装って俺達はまたつまらない言葉で互いの形を歪ませる。



なんだよ、つまんねぇ。俺、つまんねぇ。

此処は変わってない。俺も変わってない。ただ、環境が俺を成長させたって錯覚させていただけだ。

思い知らされた。
強くなったつもりだったけど俺はいつまでも子供だ。厄介者で手の掛かる……。

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