《MUMEI》

取り敢えず学校に向かった。

なんで靴はいてないのかとか、

さっきまでの記憶は一体どこいったんだろうとか、


そういうことは後回しにして。



朝だからあんまり人がいなくて、
裸足なのはそこまで恥ずかしくはなかった。



…もう、始まっちゃってるかな…


やっと着いた学校の校門前。


校門に、足を踏み入れようとした瞬間。




―…あたしの足は、言う事を聞かなくなった。



体が震え出し、心臓はごとんごとんと、大きな音を立てる。


大量の汗が吹き出る。




耳に、声が響く。




『死ネ』

『消エロ』

『キタナイ』―…



「…だ、誰…??」



蚊の鳴くような声で問いかけ、辺りを見回す。



…誰も、いない。



もう一度、声が響いた。




『知ラナイ』




―…ドクン。



ああ、思い出した…



あたし、


あたし―…




あたし、ここで、


学校で、いじめられてるんだ。



そうだ…


だから、くつも履いてなかった。

―…盗られたから。



だから、あんなところにいた。

―…一人になりたかったから。



だから、自分が今まで何してたか、分からなかった。


―…忘れたかったから。



…でも。


でも!!



『あたしは学校へ行くんだ』。



―…ちゃんと覚えてる。




約束したんだ、あたし。



あたしは顔を上げ、大きく深呼吸をすると、



境界線を、大きく跨いだ。

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