《MUMEI》

俺の話を、祐希は静かに聞いていた。

そして、一言。
「…わかった」

と、言った。

「…それ、どういう意味の『わかった』?」
俺は、恐る恐る確認した。

「だから、慎は俺と志穂が同じ位好きで、両方と付き合いたいんだろ?
俺とはもう付き合ってるから、志穂とも恋人同士になりたいんだろ?
違うか?」

「違わない。
俺、お前が好きだ。
…はなれたくない。でも…」

(わがままだよな…)

すると、祐希がため息をついた。

「…しょうがないな。
俺だって、慎とはなれたくないし」
そう言って、祐希は、俺を抱き締めてくれた。

その優しさに、俺は自然と涙が出ていた。

祐希は俺の髪を撫でながら、話を続ける。

「…でも、志穂に告白したけど、『付き合えない』って言われたんだろう?」

「うん…多分、まだ、別れた旦那のせいで、男が駄目なんだ」

「…そう、だな」

そう言って…

祐希は、

右手で、頭を掻いた。

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