《MUMEI》

「夏川……」

「佐藤君」

へばる俺を見るなり水を汲んできてくれた。

「……ども。」

やべ、走りすぎた。感動的な別れにもなんない。

「少しだけなら時間取れるよ。部屋行く?」

「ウン」

夏川なんか大人っぽくなった。
なにもかも無い、殺風景な部屋だ。

「……夏川にな、色んなこと言わなきゃいけないって思ってたんだけど走っている間に忘れた。」

この部屋みたいにすっからかんだ。

「君らしい。」

夏川は笑うとき大きく口を開けて笑わない。
その笑い方が柔らかくて心地よさ気に笑うなと思っていたけど、本当は諦めていたんだ。
ずっと前から。

「俺さ、夏川とまだ繋がっている?」

俺達は、運がなかっただけだ。きっともっと普通に会っていたら二人で友達になれただろう。

「そういう言い回しするとぺろっと喰われるよ。」

「喰われる……?」

なんだそれ。

「佐藤君ってば隙だらけだもん。今キスしても良かったんだから。」

「それはいやだよ」

夏川とはそんな……

「しないしない、本気に取らないで。僕達友達なんでしょ?」

「……それも冗談?」

真面目に聞きます。

「と も だ ち!」

本当?
夏川の手が伸びた。

「なんの手?」

掌から指先まで纖かな線を目で追う。
夏川の手が大きくなってゆく。





     ペチ







「イタイ」

叩かれた。

「手が出たら握手でしょ。友達の握手!」

夏川の手は冷たい。俺が熱いだけか。
別々の膚がぶつかるのは親愛の証だ。

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