《MUMEI》

「何か、…迷惑かけたみたいで、悪かったね。
俺、覚えてないんだけど…」
「…いい大人なんですから、気を付けて下さいね」

そう言った徹君の口調は丁寧だが、トゲを感じた。

「そうそう、昨夜みたいな電話や、一昨日みたいなメールはよくするんですか?」
「…は?」

突然、話題が変わった。

(電話にメールって…)

俺は昨夜一方的に切られた電話と、一昨日、返事の来なかったメールを思い出した。

(こいつ…まさか…)

「勝手に、志穂の携帯見たのか?」
「たまたまですよ。志穂の入浴中に、た、ま、た、ま。
間違って切ったり消したりしちゃったんです」

ガッ!

その、罪悪感の無い軽い口調に腹が立ち、俺は、徹(もう『君』は付けない)の胸ぐらを掴んだ。

「恐いなあ」

言葉とは裏腹に、徹は笑顔だった。

「いいじゃないですか、志穂にちょっかいださなくても」
「お前に言われる筋合いはない!」

俺が睨むと、徹が俺の腕を掴んだ。

(こいつ、何て力だ)

体格はそんなに変わらないのに、俺はそのまま…

ドサッ

ソファーに押し倒された。

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