《MUMEI》

『あの人』からは、志穂が退院する日に名刺をもらっていた。

というか、何故か、高山兄妹全員から、もらっていた。

俺は、緊張しながら連絡をした。

そして―

やっと予定が合ったのは、一月の終わりだった。

待ち合わせ場所は、駅前ねファミレス。

「祐希〜。こんな所に『あの人』呼んで、良かったのかな〜」
「本人が、いいって言ったんだから、いいだろ」

俺もだが、祐希も少し緊張しているようだ。

―その時。

入口から、ざわめきが起こった。

『あの人』が来たのだ。

「い、いらっしゃいませ」
「待ち合わせなんだが…」
相変わらずの、美声だった。

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