《MUMEI》

「もしかしたら、志穂は帰ってこないかもしれませんよ」

「…いい、待ってる」

俺の返事を聞くと、徹は祐希と共にマンションを後にした。

(…さて)

俺は部屋の中に入った。

台所からは、甘いチョコの匂いがした。

ちゃんとケーキの用意をしていたようだ。

冷蔵庫に、ラッピングされた箱が入っていた。

(…ん?)

俺は、オーブンの横に、もう一つケーキがあるのを発見した。

網の上に置かれているのは、

(多分、パウンドケーキだ)
妹が作っていたのを、俺は思い出した。

これは、確か、冷えたらアルミホイルか何かで包んでいたと思う。

(そのままあるということは…)

俺がそっと触れると、パウンドケーキはまだ熱が残っていた。

まるで、今出したばかりのような…

…まさか?!

「志穂?」

俺は呼んでみた。

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