《MUMEI》

(今頃、慎は志穂と…)

そんな考えが、頭から離れないわけは無かった。

きっと、俺と同じ想いを、志穂は、何度もしてきたに違いない。

(あいつ、すごいな…)

それでも、志穂は、いつも笑顔で俺と慎に接していた。

それは、慎の事が好きだから。

『愛にもいろいろあるのよ』

俺は、いつかの志穂の言葉を、思い出して、苦笑した。

本当に、いろいろ、だ。

こうやって、長い夜を過ごす事が、きっとこの先、俺と志穂にはたくさんあるだろう。

全ては、慎の、ため。

慎を愛しているから、俺も、志穂も、…耐える。

それに、俺は志穂を、志穂は俺を、慎の恋人として認めてしまっている。

(やっぱり、惚れた弱味だ)
理不尽でも、相手の望むようにしてしまう。

―俺も、志穂も。

俺は、明日徹を志穂のマンションに送っていかなければならない。

だから、寝不足の顔など見せられない。

俺は、自分にそう言いきかせて、眠った。

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