《MUMEI》 その内に秘めたるは「俺、小学生のとき虐められていてさ。」 切々と佐藤は語る。 「どんなときも庇ってくれたんだ夏川が。でも夏川は俺が眠ったときキスをしていた。 それが許せなかった。 俺に無断ですることや、か熱っぽい夏川の優しさの裏の視線が。 ずっと軽蔑していた。」 佐藤の最後の言葉がずしりと重い。 「それでもお前は夏川といただろ」 「それは……」 嗚呼、そのくぐもった声が俺に探らせると自覚しているのだろうか。 「結局のところ、友情ってやつが繋いでたんだろ」 違うのか? 「……違う。俺が夏川を避ければ誰も庇ってくれなくなる。夏川が許せなかったけど一人になる俺はもっと許せなかった。」 言ってしまった今の方が辛そうだ。 「それでもクソホモ野郎といただろ」 俺みたいな、さ。 「夏川がそういう人間だから許せなかった訳じゃ無い。 俺に何も言わなかった唇以外に触れる優しさは何一つ偽りであることが許せなかった。 優しいのは夏川が俺を好きだから。俺に縋り付かせるためだったから……。」 小さな子供に見えた。一人ぼっちで肩を震わせている子供だ。 一人前の面見せて来たと思ったらこれだ。 無意識なのか? 赤面症で感極まり紅潮した顔、涙ぐむ瞳を悟られまいとして横を向いた。 なんて幼い。 庇護したくなる。 (夏川はよくキスだけで我慢出来たな。) 前へ |次へ |
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