《MUMEI》 「……なつめ、」 驚いた顔の二階堂君の唇から、 あたしの名前が零れた。 『なんでここに??』 って顔。 あたしは慌てて弁解する。 「あ、あのね!!……これ!!!」 スカートのポケットから、 ピッキングに使った針金を取り出してみせる。 「…けっこう簡単に開くもんだね!!」 そう言って二階堂君に笑いかけると、 「……力技か」 そう呟いて、タンクの方へ歩き出した。 「え!?に、二階堂君はどうやって―…」 ―…って!! あたしが鍵かけ忘れたんじゃん… ふいに、二階堂君が振り返る。 チャリ、 すっと持ち上げた指先で揺れたそれは、 太陽の光を反射して、小さく輝いた。 「………かぎ…??」 あたしが問いかけると、 そう、と小さく頷いて、 彼はタンクの陰に腰掛けた。 「……落ちてた、から」 呟くように言った二階堂君がなんだか可愛くて、 少し笑ってしまった。 「二階堂君、ここでご飯食べてるの??」 隣にしゃがみ込んで訊ねると、 「……たまに」 と返ってきた。 「…そっちはなんで」 二階堂君が訊ね返す。 「あ、あたし??今日初めて入ったけど… なんか、邪魔しちゃったみたいだね!! ―…帰ろっかな!!」 そう言って立ち上がろうとすると、 「……べつに、俺の屋上じゃないし」 二階堂君はそう言って、持っていたパンの袋を開けた。 『ここにいてもいいよ』 って言われたような気がして、 存在を認めてもらえたような気がして。 …大げさかもしれないけど、 瞼の裏側が、熱くなった。 前へ |次へ |
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