《MUMEI》
ネコ 〈おれ〉
「あち〜…」


駅のホーム。


おれ、椎名みつると、おれの親友の瀬田は、
ベンチに座って電車を待っていた。



「…みつるは今日も空手か〜??」

「…ったりめーだろ〜!?
大会、近いんだからよ!」



…全く、瀬田は分かりきったことを…



「…あれ??」



瀬田が声を上げる。



「…どした〜??」



瀬田の視線の先を追うとそこには、
向かいのホームで本を読む、蓬田の姿があった。



「…なに、蓬田がどーかした??」

「いや、べつにー??
…やっぱ、かわいいよな〜」



もう一度、向かいのホームに視線を戻す。



…わからん。


男どもはかわいい、かわいいってうるさいけど…


真っ白で、不健康そのものじゃねーか。

…まあ、長い黒髪はキレーだと思うけど…



ぼんやりと眺めていると、ふいに蓬田と目が合った。


蓬田は少し微笑むと、本に目を戻そうとした。



が、途中で別の何かに目を留めた。


その視線の先には




『にゃー』




真っ白な子猫。



線路に、子猫が転がってる…!?


なんでまた……



アナウンスが流れ始める。



≪―…危ないですので、黄色い線の内側へ―…≫



ネコは動かない。


おい、やばいんじゃ―…!!



と、ひとつの影が、線路へと躍り出た。



―…蓬田…!?



電車がホームへ入ってくる。


―蓬田が、ネコを抱き上げる。



人々の歓声が上がる。

―蓬田が、ホームへ戻ろうと、踵をかえす―…




と、蓬田の動きが止まった。


おい、何やって―…


ローファーの踵が、線路の溝にはまってしまっている。


無理に引き抜こうと引っ張った弾みで、



蓬田が、転んだ。



周りから悲鳴が上がる。


電車が、近づく―…




「―くッ…そ!!」




おれは、線路へ飛び降りた。



恐怖に怯え、目を瞑って子猫を抱き締める蓬田に、手を伸ばす。



間に合え―…!!




ゴシャ…ッ




倒れこむおれの背後で、


何かが潰れる音がした。

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