《MUMEI》
会食
スーツは着心地最悪。

レイと待ち合わせてタクシーで来た。

普段絶対に入らないような店だ。店というかビルだ。最上階が目的地らしい。

「震えてね?」

レイが横に傾いた瞬間、腰を支えてやる。

「ヒール慣れないの!」

俺から露骨に離れた。
嫌な距離間だ。

入っていいのか確かめたくなる無駄の無いデザインのビルに入りエレベーターに乗る。
直通のエレベーターに不機嫌なレイと二人で密室というのは想像を絶する息苦しさであった。
硝子張りのエレベーターは外が一望出来る高所恐怖症はどのようにして上がるのか考えるだけで気は紛れた。

扉を潜ると待ち構えていたのか、席へ案内される。

ここまでいい店は初めてだ。いいという前に「値段」を付け足すのを忘れてはいけない。

奥にテーブルがあった。
暗めの照明を頭上にぶら下げることで明度を上げてくれている。

三人既に座っていた。広めのテーブルを囲んで話す姿はまさしくお金持ちだ。
昭一郎さえ就活に見えるスーツをさらりと着こなす愛知はやはりただ者ではなかった。
どうやら昭一郎より年長者だったらしい。
人魚の肉でも喰って不老不死でも得たのか。俺よりも若く見られる。

「彼が弟の国雄です。」

椅子を引かれ着席後、昭一郎に紹介された。

「初めまして。兄とはご学友なんですか?」

昭一郎を兄と呼ぶのは非常に違和感がある。今まで気になっていた愛知との関係をすっきりさせたくてつい、萌姉ちゃんの婚約を無視して聞いてしまった。『おめでとう』、『ありがとう』のやり取りくらいするべきだった。

「僕の勤め先が彼のバイト先に近くてね。意気投合して、こうして萌さんとも出会うことが出来た訳だ?」

あしらわれた。
萌姉ちゃんのフォローまで抜目ない。
負けたな。大人だ愛知は。
何にも知らないふりをして。居づらいのは俺だけか。

「愛知さんは大学卒業後はお父様の事業をお手伝いなさっているのよ。」

萌姉ちゃんが愛知を紹介する。

「父も僕も他に兄弟がいなかったまでです。
他の誰かに社長の座を譲るとか、考えられなかった。親子揃って完璧主義者なんですよ。」

愛知は口元を片側だけ上げて笑う。

「二人は今後結婚式を挙げたりしないの?」

萌姉ちゃんの突然の切り返し。

「私達付き合ってもいないんだからそんな予定あるはず無いじゃない。」

レイは冷静だった。
その通りである。レイはまだ昭一郎を見ているのだから。
俺が出られる筈が無い。

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