《MUMEI》
木下(きのした)と私の秘密
同級会当日。

貴子ちゃんは、私のメイクをするために、職場を早退して、私のマンションに来ていた。

「それにしても、木下のバカが役に立つ日が来るとはね」
道具を並べながら、貴子ちゃんが、しみじみ言った。
「木下君は、一応、先輩でしょ」
顔に化粧水を付けながら、私が注意すると、

「私、尊敬に値しない人間には、年上だろうと容赦ないから」

貴子ちゃんの言葉に、私は苦笑した。

(貴子ちゃんは、いつもそうなんだから…)

そして、私は、今度は乳液を顔に塗り始めた。

貴子ちゃんは、昔から、どんな相手にも、正直過ぎるほど正直に物を言う。

普通は怒られるのだろうが、才能と美貌がある貴子ちゃんだから、それが許されていた。

そんな貴子ちゃんを、私は羨ましく思っていた。

そのせいか、私は無意識に、最近、外で、身内以外の人間に対して、貴子ちゃんのように、振る舞うようになっていた。

…もちろん、私は見た目も中身も、貴子ちゃんには及ばないから、自分に正直な意見など、とても、言えなかったけれど。

それでも、私は、できるだけ、『冷静な大人の女性』でいることを、心がけていた。

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